[Parcel]「KOM_I / Kawita Vatanajyankur / Lu Yang / Masako Hirano / NTsKi / tomotosi」4面鏡 / Quad Mirror

2021.07.17.Sat - 08.29.Sun

Upcoming : 4面鏡 / Quad Mirror
(By myself, For myself, to myself & ourselves)

KOM_I / Kawita Vatanajyankur / Lu Yang / Masako Hirano / NTsKi / tomotosi

Opening Reception : 07.16.Fri. 18:00-21:00

at: PARCEL
1F, 2-2-1 Nihonbashi Bakurocho, Chuoku, Tokyo 東京都中央区日本橋馬喰町 2-2-1-1F

Open :
Wed / Thu / Sun 14:00-19:00
Fri / Sat 14:00 - 20:00
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Closed : Mon, Tue


私たちは、InstagramなどのSNSを通じて、日々 数々の自撮り(selfie)を目にしています。selfie がネット上に出現し始めた当初、それらは多くの人にとって自己顕示やナルシズムなど儚い自己表現と結びついたイメージを持つものとして受け取られていました。今日では、インスタグラマーをはじめとしたあらゆる表現者達は、自分自身のselfieをより戦略的に利用し、個人と社会の関係性を作り出す道具/手段として利用しています。いつ、誰と、どこで、どのような状況で自分自身を撮影しているのか。フォロワー達もその画像の持つ些細な情報にメッセージ性を読み、自らの価値観に反映させています。また、かつてのセルフポートレート(肖像写真)は美術館やギャラリーなどの特別な空間に置かれているものでしたが、現代においては、あらゆる小さな集団(トライブ)の世界観を繋ぎ、その小さな集団がどこに向かっていくのか、その指針を示す表現としての役割を新たに持つようになったとも言えます。
本展に参加する6名の作家は、様々な国籍・バックグラウンドを持ち、自らのセルフポートレートを戦略的に、社会との接点/小さいな集団の意思疎通の為のツールとして利用しています。セルフポートレートという共通項を持ちながらも、写真・インスタレーション・3DCGアニメーションなどの彼らの多様な作品を通して、かつてのアートにおけるセルフポートレートとは異なる目的と用途を持った、SNS時代のポートレート・アートの再定義を試みる展示会となります。

4面鏡/Quad Mirror(By myself, For myself, to myself & ourselves)についての覚書

1. インフラ
朝起きてこのテキストを目にするまでにスマートフォンに触れなかった人はいるだろうか?インターネットに接続しなかった人は?SNSを開かなかった人は?
改まって言葉にするまでもなく現代の中でスマートフォンもインターネットもSNSも我々の生活を構成するインフラ、あるいはライフラインと化している。もはやこういった発明品たちが存在しなかった時代のことなど思い出すこともなく、我々はこれらの発明品に寄り添い、共存し、発明以前以後では明確に異なった社会を生きている。

2. 鏡
振り返ってみれば我々は歴史の中で様々なものを発明し、自らの生活や社会を変容させてきた。火や車輪といった原始的なものに始まり、蒸気機関や半導体など枚挙に暇がないが、こと芸術や文化において何が重要な発明であったかを考えるに鏡の発明は特筆すべきものだろう。現在も用いられているガラス鏡に近い錫アマルガムを反射材料に用いたガラス鏡は14-15世紀頃にヴェネチアで発明された。この発明がルネサンス以降の絵画に「自画像」というジャンルを生み出し、やがて、「自己」や「内省」を発達させ、自己の内面を語る小説という文学の誕生を促し、それが個人の人権意識の確立にもつながっていった(*1)。自分の顔を映す発明品が世界も自分自身をも変容させたのだ。

3. フロントカメラとSNS
鏡の発明によって自画像が発生したように、後年、カメラが発明されたのちに写真領域でも自写像というものが誕生する。感光剤を用いて媒体に映り込んだ景色を定着させる機器としてのカメラが発明されたのは19世紀前半であるが、この手法が単なる作家自身の風貌の記録ではなくある種の表現として使われるようになったのは1960年代とやや間が空いている(初期の表現としての自写像がフェミニズム・ムーヴメントやカウンター・カルチャーの表象であったことは、先ほど触れた鏡の発明による個人の人権意識確立の延長線上にあるかもしれない(*2))。さらに現代、携帯電話機の画面側に搭載されたフロントカメラによって、セルフポートレートはその大元にある鏡としての機能を再度手に入れることとなる。画面を見つめる自分をほぼ目線と同じ角度から見つめ返すことができるようになったことで、ほぼ鏡像に近いイメージがそこには映し出されるようになり、そうして現在我々が目にするような「selfie」は誕生した。

4.  分裂
ロラン・バルトは『明るい部屋』にて、肖像写真をめぐる経験を「4人の私」と表現した。すなわち「私が自分はそうであると思っている人間、私が人からそうであると思われたい人間、写真家が私はそうであると思っている人間、写真家がその技量を示すために利用する人間」である(3)。selfieにおいてもこの分裂は可能であろうか。おそらくロランバルトの提示した分裂はほとんど全て一人の行為へと還元されていく。しかしselfieはそのような閉じた自己言及の中で行われるものではなく、社会網へと放出されていくことまでその経験の中に含まれている。鏡の向こう側から無数の視線に晒されることが前提なのだ。「ソーシャルメディア集団(tribe)が美的な選択と経験を通じて自分たちを維持していく場(4)」というのがマノヴィッチの唱える「美的社会」だ。投稿数の分析などから、SNSユーザーたちがselfieを投稿することで構築される社会はすでに存在していることも明らかだ。そこで発生するselfieをめぐる経験を今回の副題であるBy myself, For myself, to myself & ourselvesと名付けている。
セルフポートレートには現在、シンディ・シャーマンから連なるアマリア・ウルマンのような自己像を社会の中で批評的に用いる伝統も当然引き継がれている。しかし、それらとは別の方向性として新たに誕生した、ハッシュタグをつけられ、AIに画像を判断され、個人と社会とをつなぐインターフェースとなり、タイムラインに流されていくセルフポートレートであるselfieと呼ばれる一連の行為、あるいは運動体について『4面鏡/Quad Mirror』は考える機会となりたい。

*1 世界をつくった6つの革命の物語/スティーブン・ジョンソン
*2 私という未知へ向かって 現代女性セルフポートレート展
*3 明るい部屋-写真についての覚書/ロラン・バルト
*4 インスタグラムと現代視覚文化論/レフ・マノヴィッチ

Text by 石毛 健太

ARTISTS BIO 

Kawita Vatanajyankur / カウィタ・ヴァタナジャンクール

カウィタは現代社会における女性の身体と、環境や社会との関係を題材にパフォーマンス・ヴィデオ作品を制作するアーティストです。カウィタのパフォーマンスは一見ユーモラスでありながらも、女性の性差別、職業差別、また暴力などの問題を象徴しています。主な個展に「UNVEIL ESCAPE」(Gallery Seescape, Thailand, 2019年)、「FOUL PLAY」(Albright Knox Art Gallery, USA, 2019年)などがあり、グループ展に2017年には、イタリアのヴェネツィアで開催された「Islands in the Stream」展、メルボルン・アーツセンターで開催された「Asia Triennale of Performing Arts」展などがある。
www.kawitav.com  IG : @kawitavv

コムアイ / KOM_I

水曜日のカンパネラやYAKUSHIMA TREASUREのヴォーカルとして活動する傍ら、ライブの空間設計からパフォーマンスまで音楽に関わる多様な表現領域を開拓。またファッションやアート、社会問題など幅広い領域に介入するカルチュラルアクティビスト。近年はオオルタイチと共に屋久島や熊野など、国内の地域へのリサーチをベースとした楽曲作品を制作している。インド古典音楽や能楽、アイヌのウポポやバリ舞踊など、伝統的な芸能に大きな影響を受けている。主な活動に2021年「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」、2019年「YAKUSHIMA TREASURE LIVE at LIQUIDROOM」など。
another.yakushimatreasure.com   IG : @kom_i_jp

Lu Yang / ルー・ヤン

中国生まれ。中国芸術院を卒業し、現在は上海を拠点に活動。科学、生物学、宗教、大衆文化、サブカルチャー、音楽など、さまざまなテーマを主題とし、映像やインスタレーション、デジタルペイントを組み合わせた作品を制作。主な個展に「Electromagnetic Brainology」(sprial、東京、2018 年)、「LU YANG Screening Program」(アーツ千代田 3331、東京、2013 年)。グループ展に「ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2015 年)、「A Shaded View on Fashion Film」(ポンピドゥーセンター、パリ、2013 年)などがある。
luyang.asia IG : @luyangasia / @doku.asia

平野 正子 / Masako Hirano

2019年よりベルリン・東京の2拠点で活動。近年は3DCGを用いた作品を制作し、CGIと自身のポートレートを組み合わせポップかつキッチュな作品を生み出している。平野の表現が映す世界は非常にフラットかつクリアで、しかしカオスや矛盾に満ちている。あらゆる視覚情報がデータ化され高速で消費されて SNS の時代に、自身の表現(自分自身のポートレートでさえ)が情報に流されることを受け入れながらも、時代の脳裏に焼きつくイメージを模索している。アートディレクター/グラフィックデザイナーとしてReebokやラフォーレ原宿などの企業や商業施設のキャンペーン広告、水曜日のカンパネラ、Tohjiなどのミュージシャンへのビジュアル提供といったコミッションワークなどを手掛け、ジャンルを超えた活動を展開している。
masakohirano.com  IG : @cokepoteto

NTsKi / エヌ・ティー・エス・ケー・アイ

NTsKiは音楽・写真・映像を通じて、場所や時代を超えた記憶や気配を具現化するアーティスト。主な活動はミュージシャンとして知られているが、楽曲やMV、ビジュアルやパフォーマンスも全て作品としてプロデュースし、配信や流通までも自身で管理している。これらの総合的な創作活動をアートとして捉えており、音楽とアートのメディアを横断した共感覚を切り開くアーティストである。主な活動に2021年Giant Clawのアルバム「Mirror Guide」にヴォーカルとして参加、2020年「大京都芸術祭」(京丹後市)などがある。2021年8月6日、デビュー・アルバム『Orca』を米オハイオのレーベル〈Orange Milk〉/〈EM Records〉よりリリースする。
ntski.com IG : @ntski

トモトシ / tomotosi

1983年山口県生まれ、東京都拠点。豊橋技術科学大学建設工学課程を卒業後10年にわたって建築設計・都市計画に携わる。2014年より映像インスタレーション作品を発表。都市空間や公共ルールに歪みを生むアクションを行う。2020年より西荻窪にトモ都市美術館(現TOMO都市美術館)を企画運営。主な展覧会に「ヘルニア都市」(トモ都市美術館 2020)、「有酸素ナンパ」(埼玉県立近代美術館 2019年)、「あいちトリエンナーレ2019」(豊田市 2019年) などがある。
tomotosi.com   IG : @tomotossi

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